骨折に対する応急処置(整復・固定)と関節拘縮に対する痛みのないリハビリ

手首の骨折 整復前

見事なまでの右橈骨完全骨折

72歳 女性

H29年2月4日 自宅で風呂掃除をしていて、足を滑らせ転倒し手をついて受傷した。

来院時の状態がこちら↓

骨折の変形 側面

 

ずれた骨を戻す整復操作後がこちら↓

骨折 整復後

 

先ほどより良い状態になりました。

整復操作時に力ずくで戻そうとすると、患者さんの防御反射が働いてしまい、ただの引っ張り合いになってしまいます。

すると、暴力的な整復になり痛みも強く十分な位置に戻りにくくなるんです。

この時の痛みや恐怖の感情は、後に出てくるCRPSに繋がるので慎重にやるべきです。

関節や皮膚の受容器(センサー)の機能を知っていれば、力技ではなく患者さんの苦痛も大幅に軽減できるのです。

 

接骨院では骨折に対して当日の応急処置のみ認められており、その後の経過を診るには医師の同意がないといけません。

なので後はCRPSを発症しない事を祈るばかりでした。(整形外科医でCRPSを熟知している人は少ない)

CRPSは骨折に限らず、外傷を診る上で非常に重要なことなので、ご紹介します。

複合性局所疼痛症候群 complex regional pain syndrome(CRPS)

最後にCRPSについて解説します。CRPSとは、複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome)の略で、骨折、捻挫などをきっかけにして、慢性的な痛みと腫れが持続し、その結果、運動制限を引き起こす病態です。手術を契機にして発症することもあります。以前は反射性交感神経性ジストロフィー(reflex sympathetic dystrophy:RSD)とも呼ばれていました。神経損傷を伴う場合もありますが、単純な打撲でも生じることがあり、原因となる刺激とは不釣り合いな痛みが続き、通常では痛みを起こさないような刺激でも疼痛が生じることもあります。CRPSは、いまだにその発生機序が解明されておらず、器質的、機能的要因だけでなく、心因的要素の関与も示唆されています。症例により、また病期により、痛みの発生機序や効果のある治療も異なり、治療体系が確立していないのが現状です。発症し、慢性化した場合には、整形外科のみでの治療は限界があり、麻酔科による神経ブロック療法、精神神経科による薬物療法なども試みます。

慶應大学 医療・健康情報サイトより引用

 

その後の処置~経過

当院での処置が終わり、そのまま近くの整形外科に行ってもらいました。

その時のレントゲン写真がこちら↓

骨折 整復後のレントゲン写真

 

整形外科で臨時の医師により再度整復され固定をされたようです。

 

そして、2日後に院長の診察があり、レントゲン透視下において整復されたのですが、かなり強引だったようでメチャクチャ痛かったと言ってました。

整復後に固定された時のレントゲン写真がこちら↓

ダメなギプス固定

 

この固定の写真を見た時は僕自身の血の気が引くのがわかりましたが・・・あえてコメントは差し控えます。

後日、今までのレントゲン写真や報告書を持ってきていただけたので、実際の手の様子を診せてもらいました。

ギプス固定中

レントゲン写真で想像はしていたが、実際に見た瞬間は卒倒しそうになりました。

手首の角度がキツすぎなんですよね。

 

整形外科での治療も含めたリハビリ

整形外科では、レントゲンでの骨折部の確認とリハビリとして手のマッサージをしてもらっていた。

お話を聞く限り、無茶な他動運動はやられなかったみたいで良かったです。

あとは、自宅で日常の家事や洗濯などはなるべくやるようにしていたそうです。

 

3か月ぶりにマナ接骨院に来院

受傷から3か月経過し、骨折部の状態は良くなってきてるが指の痛みや関節が動かしにくいので5月8日に当院に来院されました。

今回は軽度な拘縮で済みましたが、重度の拘縮であっても施術の方法はほぼ同じです。

一番重要なターゲットは患部ではなく、脳にあります。

そもそも、拘縮を起こさないように極力リスクを下げることが重要なので、そのあたりも解説していきます。

整形外科での強引な整復操作、窮屈な角度と不要な部位にまで及ぶギプス固定を見ていたので、内心どんな状態になっているのかずっと不安でした。

CRPSを発症し、「指や手首がほとんど動かないんじゃないか?」「むくみが消えてないんじゃないか?」

色々と想像する日々でした。

だが、結果は僕の予想を裏切るいい結果でした。

骨折後の指の動き

 

この安堵感! CRPSを深いところまで知っているからこその感情でしょうね。

 

関節拘縮の状態が良好だった要因を探る

さすがに初めのころは、ちょっと動かすと痛いしこのままで本当に良くなるのか不安だったようです。

ギプス固定を除去した直後は、指も手首もほとんど動かないし痛みもあったのでかなり不自由で、特に印象に残った言葉が「もしかしたら、もう右手でご飯が食べられないかもしれない」とまで思ったそうです。

僕が関与した事と言えば、まだギプスを巻いている時にお話する機会があり、僕がプラセボ大魔神に変身してポジティブな言葉を浴びせたことくらいです。(←結構大事だったりします)

 

日常生活でのリハビリ

それでも、日常ではやる事があるので自然と使っているうちに段々と指や手首が動くようになってきたということです。

『自然と』というのが意外と重要だったりするのです。

ネガティブな感情(なんで自分だけがやらなくちゃいけないんだ)をもっていたり、こんな事して大丈夫かという不安な気持ちが強かったりすると回復が遅れる傾向にあります。

ですが、いきなり全ての家事をこなすのは無理があるので、まわりの協力は大事になってきます。(特に普段家事をしない男性は、せめてこんな時くらいは協力しましょう)

整形外科でのリハビリ

ギプス除去後はリハビリとしてマッサージを受けていたと。

僕が懸念していた、痛みを我慢して無理やり動かすような他動運動はされなかったみたいで、胸を撫で下ろしました。

ほんと良かった!!

なぜかというと、痛みをこらえて行うリハビリは、それだけでCRPSの発症・増悪のリスクが高いからです。

ただでさえ骨折の整復時に強烈な痛みを感じてしまったので、それは避けて欲しいと思ってました。

例外として、中にはリハビリは痛いもの・痛くても我慢するもの完璧に信じ込んでいる方には無茶なリハビリでないと納得できない方もいます。

ただ今の時代、そういった方は極少数なので当院では無茶なことはしていません。

 

関節拘縮の改善に痛みを我慢しながらのリハビリは必要ない

ヒトの痛みのメカニズムを理解してる人間からしたら、まったく理解できないんですが、いまだに苦痛に耐えさせながらのリハビリをやってる所があるんですね。

そのままガマンしてリハビリを受けているとCRPSという厄介な状態になってしまうかもしれません。(これは不安を与えるのが目的じゃなくて回避する為のアドバイスです)

関節拘縮の原因として教科書なんかを見てみると、

・筋肉
・靭帯
・関節包
・腱

などの軟部組織が関与しているとされています。

組織学的にはコラーゲン線維の変化などとも記述されているが、これらはあくまで結果として起きているのであって、真の原因とは言えません。

一番の原因はです。

脳と言っても何も小難しい話じゃありません。

『ギプスで固定すると関節は固くなる』という前提で診ている医療者から発せられる言葉が大問題なのです。

説明する女性

 

ヘタに治療計画なんぞを提示されて「○週間固定して、その後は関節が固くなるから○か月リハビリして・・・」なんて説明されでもしたら、患者さんはその時点で「自分の関節は固くなる」と脳に刷り込みをされてしまいますよね。

まずは、このスタート時点で間違っているんです。

 

子どもは組織の修復が早いから関節拘縮を起こしにくいというのもありますが、それよりも生まれてから現在までのネガティブな情報が少ない分そういった事態になりにくいんだと考えます。

大人は色々と間違った情報がこびりついてますからね。

その証拠に、子どもであっても周りの大人から強烈な不安(リハビリは痛いけど頑張ってね)などの言葉を浴びせられれば、しっかりと関節は固くなります。

 

要は、脳にそういった認識をさせなければ関節拘縮のリスクは減らせるのです。

医療者はこういった事を理解した上で、怪我の治療に当たらなくてはいけません。

 

関節拘縮のリハビリに必要な知識と方法

 

実際の技術的なことでいうと、固くなっている患部のみにアプローチしていてもなかなか効果は上がりません。

なぜかと言うと、関節周囲の筋肉や腱、関節包などの緊張が取れてなければ関節の柔らかさは回復しないからです。

 

これらの緊張状態の調節をしているのも、これまた脳なんですよね。

脳が緊張状態を解いてくれるには、安心感が必要です。

そういった意味でも、リハビリに必要なのは【やさしい刺激】なのです。

 

痛いリハビリはCRPS発症のリスクが高まる

今まで述べてきた事を前提として、

・固定の肢位(角度など)
・固定具の不快感(きつい・ギプスの角が当たる)
・励ましの言葉(不安の軽減)

などと、気をつけなければいけない事は山のようにあります。

それらを無視して関節拘縮を起こした挙句に、リハビリで痛みを与えられガマンし続けていると、CRPSという最悪の結果を招く恐れがあります。

実際に発症してしまうと回復がさらに難しくなってしまうので、事前に関節拘縮を含めた【ヒトの痛み】を十分理解している医療機関を知っておくべきだと強く勧めます。

僕の所にも、他院で骨折の治療をしていてCRPSを発症した患者さんが来院しました。

右足のCRPSを発症

左右の足の違いがおわかりいただけますか?
色も大きさも別人の足みたいですよね。

なぜこうなったかは足の骨折からCRPSを発症し痛みが持続していた症例に詳しく書いてあります。

骨折は骨を真っ直ぐにくっつけることがゴールではありません。

その後の生活のことも考えて、関節拘縮のリスクを極限まで下げて対応しなくてはいけません。

現在は健康保険を扱っていないのでハードルは上がりますが、リハビリに苦しんでいるようでしたら当院がお力になります。

 

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