怪我の固定材料の選択を間違えると、経過にも関わってくるので大事な部分ではありますが、単純に固めればいいという訳ではありません。
そこで今回は外傷固定について【ニューロフィクス】という概念をお伝えします。
痛み・腫れのコントロール及び関節拘縮の発生予防
ケガをしてギプスなどの固定を経験された方ならわかると思いますが、初めは患部の安静が保てるので良いんですけどある程度落ち着いてくると、逆に動かない事のストレスや固定材料が当たって痛いという事が珍しくありません。
骨折を例にとって、『ずれた骨を元に戻してそのまま骨をつける』という目的だけでいえば、ひたすら【強固な固定】が必要になるでしょう。
しかし、骨はついたが関節が固まって動かない・リハビリをしても動きが悪いままという事もあります。
僕も修業時代は『骨折をしたら関節は固まるもの』と思い込んでいました。
理由も考えなかったし、「固くならない方法はないのか?」なんて事も考えていませんでした。
今思い返してみると勉強不足です。
プライトンを第一選択にする理由とは?
外傷を含めた外固定が必要な人の痛みを診る上で重視しているのが【機能性の確保】です。
そこで、もっとも信頼のおける固定材料がアルケア社のプライトン+オルソラップの組み合わせが現状においてベストだと感じています。
プライトンの優れた点として、適度な柔軟性と作成時や経過ごとに形状を変えられる自由度が高いことだと思います。
オルソラップは吸湿性に優れ、なんといっても皮膚に接触した時の心地よさが素晴らしい。
この感触は、皮膚のセンサー(感覚受容器)の興奮を抑えてくれます。
プライトンの重ねる枚数を増やせば、しっかりと固定できますし経過を診ながら短くも余計な部分をカットする事も難しくありません。
もちろん骨折などの転位を防ぐために強固な固定が必要な場合は、硬質素材などの選択もあります。
ただ、日常遭遇する機会は減っており比較すると機能性重視の固定を求められる症例の方が多いでしょう。
固定をする上での機能性とは?
固定をする際、ただ固めればいいということであれば、極端な話ひたすら強く・固くすればいいだけです。
しかし、それでは血行障害や神経障害が発生してしまいます。
固定を考える時、解剖学的に形を戻すことのみに囚われてしまうと、どうしても強固な固定に意識が向きがちになります。
例えば、橈骨遠位端骨折で整復し骨の位置もバッチリ・固定もうまくいき再転位もなく骨癒合したけど、拘縮で指も手首も動かない…なんて事になったらリハビリが大変になってきます。
靭帯損傷にしても痛みと腫れのコントロールができていればガチガチに固めなくてもちゃんと改善していきます。
なぜ関節が固くなってしまうのかの原因を考えよう
関節が固まり動きが悪くなることを『関節拘縮』といいます。
なぜ拘縮が起きるかというと、単純に動かさないからだけではありません。
その裏側には脳の働きが関係してきます。
・ケガそのものの痛み
・ケガの経過に対する不安
・動かさないと固くなるという都市伝説…
こういった感情、思考が脳に記憶されたり恐怖心が大きくなる事により拘縮は起こりやすくなるのです。
これは拘縮に限った話ではなく、単純にケガの治り方にも大きく影響してきます。
次の症例は病院に勤務していた時のことです。
『小学生の女の子が足首を捻挫してギプス固定をしました。
その後、ギプスを取り外しができる状態にカットしリハビリが開始されました。
そして、その女の子の足を見てみると…
筋肉はおちて細くなってるは、関節が固くなって拘縮起きてるは、皮膚はテカテカ光ってるは、ギプスを巻いていた所が異常に毛深くなってるはで驚きました。』
基本的に子どもの捻挫でリハビリが必要になるのも珍しいんですが、その子は明らかに経過がおかしい。
良く話を聞くと、来院時は歩いてきたのにキャストライトというプラスチックの固い素材で固定をされてビックリしたと。
その後は、周りの大人から「リハビリは痛いのよ~」なんて言われてこわかったと。
そういったネガティブな情報を受け取り、真に受けてしまうと脳に恐怖の感情が定着してしまいいわゆるCRPSという特殊な症状を出してしまいます。
固定中の不快感を如何に減らせるかが大事
このケガにはこの角度で・この材料でなど固定観念を持ってしまうと、固定されている患者さんの状態や不快感まで気が回らなくなる恐れがあります。
今まで述べたように、そこを疎かにしてしまうとその後の経過に影響してしまうので無視してはいけません。
固定装着時の不快感の例
・関節を固めすぎることによる
・固定具の端が当たる事による
・特に夏場の蒸れや皮膚に対する
ここが当たって痛い、窮屈で常に力が入ってしまうなど気になることがあったら担当の先生に言いましょう。
後で困るのはご自身なので!
医療者にもこういった気遣いは必要だと思います。
もちろん、当院でもこの事を常に心がけるようにしていきます。
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